新築住宅を建てるために土地を購入したり、自宅の建て替えを依頼したりする場合、事前に押さえておいて欲しいポイントが「擁壁(ようへき)」です。特に高低差がある土地で工事を行なうなら、擁壁に関する知識を学んでおく必要があります。
擁壁の面積・高さや土地の環境によっては、擁壁工事に数百万~数千万円の費用がかかり、工期が遅れてしまう可能性もあるのです。
この記事では、擁壁の概要に触れながら、擁壁工事が必要かどうかのチェックポイントや工事を依頼するときの費用・工期などについて解説します。
1.高低差のある土地で注意したい「擁壁」
高台の土地には見晴らしが良い、風が通りやすいといったメリットがあります。
しかし、冒頭でも述べたように高低差のある土地を購入したり、その土地に建てられた住宅の建て替えやリフォームを行なったりする場合、あらかじめ「擁壁」についてチェックする必要があります。
擁壁とは、わかりやすく説明すれば「崖や盛土が崩れ落ちることを防ぐ壁」です。コンクリートや石材を使って作られており、街中でも高い場所に建てられた住宅の下などでよく見られます。
擁壁と一口にいっても、その外観はさまざまです。切り立った崖を覆うように高い擁壁が設置されているケースもあれば、人間の背丈とそう変わらない2m以下の擁壁が設置されているケースもあります。
擁壁を設置することは建築基準法や条例によって規定されています。規定内容は自治体によって違うので、事前に市役所などで確認する必要があります。
2.実際にはどんなもの?擁壁の種類
擁壁自体は一般的なものですが、普段は意識していないという人は多いでしょう。そこで、よくある擁壁の種類についてご紹介します。
2-1.鉄筋コンクリート擁壁
「鉄筋コンクリート擁壁」は現代において最も多く採用されている擁壁です。鉄筋コンクリート製だけあって強度が高いので、耐震性に優れています。高強度を活かして垂直に設置できるため、土地を有効活用しやすいこともメリットです。
なお、鉄筋コンクリート擁壁は形状によってL型・逆L型・逆T型など、さらに細かく種類が分かれています。現在は土地をより広く使えるL型が一般的です。
2-2.ブロック擁壁
「ブロック擁壁」とは、その名の通りブロックを石垣のように積み上げて作られる擁壁のことです。昔は石材のブロックが使われていましたが、今はコンクリート製の「間知ブロック」が主流となっています。
デザイン性に優れており、さまざまな風合いを出せることがメリットです。
3.土地の購入時に擁壁工事が必要な場合も
宅地として売りに出されている土地の中には、購入条件として「擁壁の設置」が設定されているケースもあります。当然ながら追加費用も発生してくるため、契約してから気づいたということがないよう、あらかじめ確認しておくことが大切です。
一方、大きな土地を分譲して売りに出している場合、擁壁をすでに完備している、もしくは土地代に擁壁工事の費用を含んでいるというケースが多く見られます。この辺りも、どこまで含まれているのか事前にきちんと確認しておくと安心です。
なお、隣接する土地に高低差がある場合、擁壁は上側の土地を使って作るのが基本です。そのため、上側の土地を所有している人が費用を負担することになります。ただし、地盤調査によって下側の土地に擁壁を作らなければならないと判明した場合、費用を負担すべき人は下側の土地所有者となります。
その他、土地の一部を提供したり、費用を折半したりするケースも。該当しそうな場合は、トラブル予防のためにも詳しい条件を把握しておきましょう。
4.建て替え時やリフォーム時にも擁壁メンテナンスの必要性を確認
両親の古い住宅を建て替えたり、中古で購入した住宅をリフォームしたりするとき、すでに擁壁が設置されているという場合も注意が必要です。特に古いタイプの擁壁(玉石擁壁・大谷石擁壁など)は、現在の建築基準法や宅地造成等規制法における基準を満たしていないケースが多いので、新たに作り直さなければなりません。
また、法律上の基準をクリアしている擁壁でも、亀裂が入っていたり、年数経過によって著しく劣化していたりする可能性があります。軽微なダメージなら安価な補修工事で済む可能性もありますが、そうでなければ作り直しになるため、かなりの費用がかかる恐れがあります。
住宅の工事が決まってから想定外の費用を請求されたり、工期が大きく遅れてしまったりといったことのないよう、擁壁の状態についても事前にきちんと調査しておく必要があります。また、土地の勾配がきつかったり、搬入経路が狭かったりする場合、住宅工事そのものの費用がアップすることも覚えておきましょう。
5.工事が必要な擁壁のチェックポイント
擁壁工事の必要性については、専門家による地盤調査の結果に基づいて判断されます。ただし、目視によるチェックでも擁壁の強度はある程度はわかるため、気になる場合は以下のチェックポイントを参考に確かめておきましょう。
<擁壁のチェックポイント>
- 擁壁の表面に亀裂・ヒビ割れ・変形・風化などが見られないか
- 擁壁に目視でわかるほどのズレが生じていないか
- 擁壁の面積3㎡につき、1カ所以上の水抜き穴(内径7.5cm以上)があるか
- 擁壁の水抜き穴が土や草などで詰まっていないか
- 擁壁の表面が湿っていたり、水がしみ出ていたりしないか
- 「2段擁壁」や「空石積み擁壁」など宅地に適していない擁壁が設置されていないか
上記チェックポイントのうち、一つでもクリアできない項目があった場合、作り直しや補修を行なう必要がある可能性があります。新しい擁壁でも問題が潜んでいるケースがあるので、よくチェックしておきましょう。
6.擁壁工事にかかる費用や工期は?
擁壁工事にかかる費用は、擁壁の面積・高さや土地の環境、工事の難易度によって大きく変動するものです。
一般的には1㎡あたり3~5万円程度といわれていますが、条件次第では10万円以上かかるケースもあります。工事内容によっては数百万~数千万円以上かかるケースもあるため、事前にどれくらい必要か確認したうえで、費用を準備しなければなりません。
ただし、自治体によっては一定の条件を満たせば、擁壁工事への助成金が支給されることもあります。不動産会社やハウスメーカーが助成金申請を代行してくれるケースも多いため、まずは相談してみましょう。
また、擁壁工事の工期については、工事内容次第ですが、少なくとも2週間~1カ月半くらいはかかると考えておきましょう。大規模な工事が必要な場合、3カ月程度かかることもあります。
工期は生活や引っ越しにも影響してくるので、あらかじめ工程表をもらって確認しておきましょう。
6-1.2mを超える擁壁の新設には申請が必要
高さ2mを超える擁壁を新たに設置する場合、建築基準法に基づいて「工作物確認申請」の手続きを行ない、自治体から許可をもらう必要があります。また、一定規模を超える擁壁工事を行なう場合、宅地造成等規制法に基づいて「宅地造成の許可」が求められるケースもあるため、注意が必要です。
なお、申請から許可が下りるまで1カ月程度かかるので、この期間も踏まえてスケジュールを検討することが重要です。擁壁工事を行なうことが決まったら、早めに申請しましょう。
7. 擁壁については不動産会社やハウスメーカーに相談を
「擁壁」は建築基準法や条例によって定められているものであり、自分たちの住宅とその周辺を守るために設置する必要があります。擁壁が必要かどうかは個人では判断が難しいケースもあるため、不動産会社やハウスメーカーに相談してみましょう。
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