そもそも、キッチンとは何なのか。料理を作るための調理器具なのか、料理をする裏方のための作業場なのか。元来日本人の生活風習では、「台所」は土間にあった。火を使うという安全上は考慮するが、それはメインルームである居間とはかけ離れた場所である。その後も四方を囲まれた中にキッチンは収納される時代が続き、今やっと「家具」という概念まで押し上げられた。さてその次の進化とは──。
ショールームは品定めをする場所
ではなく、
自分らしい生活を想像する場所
イタリアの高級キッチンが居並ぶショールームなど、さぞ敷居が高いのだろうと思わずにはいられない。それもオートクチュールだ。ただ物を買うという行為の上に、自分の美学、暮らし方を露わにしながら創り上げていく。その過程で、それに見合う人物なのかという真価が見え隠れするのは当然だろう。そんな思いから幾ばくかの緊張を感じつつ中に入る。「高級」という威圧感に押しつぶされはしないだろうか。──その思いは一瞬にして浅はかであったと恥じる。
本物とは、なんと“物腰”が柔らかいのだろう。
見るからに端正な顔つきのイタリアンファニチャーがそこにあるものの、キッチンに感情があるとするならば、実に好意的に迎え入れてくれたとでもいいたくなる。このショールームを案内してくれた尾藤和宏氏は開口一番こう語った。「Euromobilのデザインは、調和という言葉がすべてを物語っています」。その調和を生み出す根底にあるものは何か。会社としてのフィロソフィが知りたくなる。
デザイン美がせめぎ合う地で、
常に新たなスタンダードを創出していく
Euromobilは、1972年、イタリア・ヴェネト州コネリアーノ近郊の街で、古くから高級家具の一大産地として知られるファルツェ・ディ・ピアヴェで創業した。イタリアといえば、家具をはじめ、建築、自動車、ファッションなどさまざまなジャンルで、世界を牽引するデザインを創出してきた国。その洗練性こそがスタンダードであるという街において、常に独自のセンスを頼りに革新し続け、オリジナリティを追求すると共に、世界に新たなスタンダードを創出することは決して容易いことではない。機能性を求めすぎてはデザインが追いつかない。
デザインに軸を置きすぎては人の暮らしに寄り添えない。流行を追ってばかりではオリジナリティから遠退いていく。
そうした厳しい環境下で生き抜くための哲学とは何かを問うと、意外にも答えはシンプルだった。「デザインとは、色や形状など、表層だけを指すものではない。人と空間との関係性、人と物との関係性、これらもすべてデザインなのです」。この想いが頑なに守られ、継承されているのも、創業者であるアントニオ・ルケッタ氏と、その一族がひとつの想いを以て取り組んできた証だろう。