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オーダーグラン

伝統的な製法にこだわる理由

日本人は靴以外でも作ることに対して“極める”ことを目標としている職人が多くいます。 その方々が求めるものは、機能、デザインのみならず、使い手の幸福感も考えているに違いないと思っています

斎藤氏は靴の製法を、中世ヨーロッパから伝わる伝統的な手法で靴作りを行っている。生産性に優れた新しい方法があるのにもかかわらず、その製法にこだわる理由を語ってくれた。「単純に靴の形に仕上げるのであれば、現代の製法で十分に間に合います。しかし、いくら技術が進歩したからとはいえ、量産を見据えた合理的な製法では、やはり繊細な部分にまで対応できないのです。一からすべてを作るためには、やはり伝統的な製法なくして為しえません」と斎藤氏。物づくりは効率化が進む一方だが、反面、一本一本縫い合わせていくその行程にこそ魂が込もるという。

日本の美意識は、世界屈指のレベル

英国紳士など、オシャレは常に欧州が手本であることは今に始まったことではない。しかし斎藤氏に言わせると、じつは日本の美意識は世界でもトップレベルにあり、数百年の歴史がある欧州の国と比べても遜色が無いという。「日本で作られるフルオーダーの靴の特徴として、機能面とデザイン性が両立しているという点があげられます。靴の文化の欧州でさえその二つを両立されたものは、めったに見ることはできません。日本人は靴以外でも作ることに対して“極める”ことを目標としている職人が多くいます。その方々が求めるものは、機能、デザインのみならず、使い手の幸福感も考えているに違いないと思っています」

履く人と共に時を刻む、一生もののビスポークシューズ

その日本人の美意識を実感できたエピソードがあった。斎藤氏のところにアメリカ人のお客さまが訪れ、一足注文した。その後、完成した靴を見てその方は「なんてエレガントできめ細やかに作られているのだ。このような繊細な靴は見たことがない」と絶賛したそう。お客さまが褒めているディテール部分も、斎藤氏が特に手間暇かけた部分だ。靴の内側ふまず上がりから、つま先をへて外側ふまず上がりに至る縁回りを「コバ回り」と呼ぶ。その部分には、靴底とクッション本体を縫うための溝「ピッチ」があるのだが、その溝が極限にまで細かに作られていることにそのお客さまは感銘を受けたのだ。「『ウィール』といわれる溝を作る道具があるのですが、溝の細かさによって18種類ほどあります。その中で一番細かくなるものを使用し、美しさを際だたせるように工夫しました。細かくなればなるほど、糸を通す回数は多くなり手間がかかりますが、美しさのためには手間を惜しみません」。斎藤氏の美意識が映された靴は、世界の垣根を超えて認められている。

履く人と共に時を刻む、一生もののビスポークシューズ

永きにわたり愛される靴へ

最短でも半年の時間を要するフルオーダーの靴。その靴はメンテナンスをしっかりと行って使用すれば、なんと10年以上も履き続けられるという。職人の手によって丁寧に作られた靴は、履く人と共に時を歩んでいくパートナーとなっていく。「フルオーダー」──そこには作り方を示した“説明書”は存在しない。作り手はお客さまの“目に見ないこだわり”をひとつずつ模索しながら形作っていくのだ。

Toru Saito│斎藤 融
Toru Saito│斎藤 融

神奈川県厚木市出身。大学卒業後、大手化粧品メーカーに営業職として勤務。やがて靴の世界に魅了され、浅草の靴学校で靴づくりの基礎を学ぶ。卒業後、更なる技術向上と知識習得のため、日本を代表する靴職人の一人である柳町弘之氏よりShoemakerとしての必要な技能と心得を学ぶ。
2014年、自身のブランド「TORU SAITO」発表。

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